CASKE2000


WALKING BARE FOOT IN THE JUNGLE

裸足で歩くジャングル

文:ジョンフィリップ・スレ


丸太の一本道

  雨季になると、メンタワイのジャングルは泥沼の大湿地帯に早変わりする。増水した川は都合のいい水路になるが、すべての地域に川が流れているわけではない。
 メンタワイの人々は村の周囲数キロメートルを歩いて行き来できるよう、どろ沼の湿地帯に丸太を一本づつ渡している。しかし、太ももまで埋まる泥の中を歩かずにすむというだけで、太さ・長さ・種類も様々な丸太が泥沼にぽんとおいてあるだけだ。 普通の人がそう簡単にこの丸太の一本道を歩くことは出来ないだろう。

 泥でぬるぬるした細い丸太の上を歩くとする。それも数メートルを注意深く進むのではなく、数キロという距離だ。転ばずに進むことはまず不可能。しかも足を踏み外せば、ズッポリ太ももの上まで泥に埋まる。靴が脱げないよう泥から足を引き上げ、丸太の上に戻ることを繰り返す。たった1kmしか進んでいないのに、すでに疲れきっている。そんな姿を横目に、子供たちは丸太の上を走りまわっているだろう。丸太を歩き始めたその日でも、メンタワイの子供達は転ばないのだ。どうしたって、メンタワイの人々にはかなわない。

 さらに大変なのは、見えない丸太の上を歩く時だ。ひざ上までくる水と足首の上までぬかるどろの中、靴の裏で前を探りながら進まなければならない。一本目は幸い転ばずにいたとしても、靴では次の丸太の位置を感じることが出来ず、結局足を踏み外し泥の中・・・。
ここでは靴だって役立たずだ。

   それにメンタワイの住居は、水かさが増す雨季に備えて高床式になっている。たいてい滑りやすい丸太を上らなければ家までたどり着けない。 僕は数日間さんざんもがいた後、裸足で歩く以外ないとわかった。どろどろの丸太の上では裸足の方が滑りにくいし、足の裏で丸太を感じることが出来る。(だたしそれも練習が必要。)こうして僕はジャングルを裸足で歩くことになった。

はだし1日目

   この日、メンタワイの友人一家とドリアン採りに行くことになった。すこしの距離を歩くだけだし、裸足でいくにはちょうどいい機会だった。 数歩もいかないうちに、僕は裸で歩いている様な気分になった。裸足だけのせいではなくて、メンタワイの友人がズボン代わりにくれた、「カビット」と呼ばれる樹皮で作った腰みののせいだ。
さて、しばらく歩いているうちに、ぬれた丸太の上では裸足の方が簡単だと分かってきた。滑って足が泥の中にズッポリ埋まるたびに、足の指の間からにゅるにゅる泥がはみ出てきて足を覆う。気持ちがいい。しかし、低木の生い茂る所では全神経を次の一歩に集中させた。泥の中に隠れているドリアンのかけらや、とげだらけのパンドラの枝を踏んでしまうのではないかとはらはらする。しかし、いくら注意しても見えないのだから仕方がない。痛くて右足を持ち上げて見てみると、約7cmはあるとげが刺さっていた。木につかまってそのとげを抜く瞬間、あまりの痛さで思わず大声が出た。
    それから5分後、前を歩いていたお婆さんが立ち止まった。そして足の裏に刺さっているとげ(僕のと同じ大きさだが、刺さっている深さは2cm以上)を表情も変えずにあっという間に抜き、何もなかったようにまた歩き出した。 ここでは靴同様、僕の足の裏も役立たずのようだ。メンタワイの人々のように生活するには、痛みに耐えることと時間が必要なのだ。決心したからには、靴を投げ捨て裸足で歩き続けるだけだ。

はだし2日目

   次の日、メンタワイの家族は僕の身なりをメンタワイらしく整え始めた。腰みのだけでは不十分らしく、彼らは僕にビーズのネックレスやブレスレットをつけた。そして赤い布を僕の頭に巻いて僕の長い髪を詰め込み、少しでも見苦しくないようにといっぱいの花と匂いをつけた葉もつけてくれた。

   今日もドリアン採りに出かける。たくさんのドリアンを採るため、かなりの距離を歩くはずだ。昨日僕の足にとげが刺さったことを皆知っていたから、僕がはだしで行こうとするのを止めてくれたけれど、僕の決心は固かった。
    しかし、慣れるまでには時間がかかる。裸足だと常に足が四方八方につるつる滑っていきそうになるし、泥の中に足を突っ込んで岩にぶつけたり、泥の下にある枝と枝の間に足が挟まってしまうこともあった。1時間半後、大きな川にたどり着いてほっとした。きっと少しの間、泥沼から離れこの川をたどって行くのだと思った。川の水に足を入れた瞬間、嬉しくてたまらなかった。冷たい水が気持ちよく足を包み、もうとげを恐れる必要もない。

  が、しばらくするとこんな楽しい気分は消え去り、川床を歩くのは新たな痛みの経験となった。川の流れでどこに足を置いていいのかはっきり見えず、滑っては転びを繰り返し、最後には先にあるすべての石や枝につま先をおもいきりぶつけた。苦痛に耐えながら川を歩いて1時間過ぎた頃には、まるでとがった石の上を歩いているような気分だった。

   やっと家族所有のドリアンの木にたどり着いた。家族の一人、シグリジェイレイがすでに木のてっぺんにいるのを見て僕は驚いた。雨が降っていて、いたるところ滑りやすいのにもかかわらず、彼は高さ35mはある木の枝から枝へと歩いていた。綱渡りをする様に何にもつかまらず、まるで地上にいるかのように枝の上を歩いている。彼は竹の棒で3〜5m先にあるドリアンを突つき落とすのに夢中で下を気にする様子もない。
   爆弾のようにドリアンが落ちてきた後、僕達の仕事が始まった。まずは採りたてのドリアンで腹ごしらえをし、それから残りをかごいっぱいにつめた。重さが20〜30kgにもなるかごが8つもできた。僕はこのかごを背負いながら、フランスの特殊部隊で経験したものすごく強烈で苦しいトレーニングを思い出した。 ドリアンのとげがかごから突き出て背中に押し付けられ、細い肩紐はドリアンの重みで肩に食い込んでくる。泥道では荷の重さでバランスが取れず、歩くのもやっとだ。ものすごく注意しながら歩くから、当然遅くなる。長時間歩いた後、疲れて太ももが上がらなくなった。慣れるためには仕方がないのだが、さすがに足も痛い。

重いかごを背負って歩いている僕が、いつ滑って転び、最悪の場合死んでしまうのではないかと皆心配して、僕のかごを持ちたがった。なぜここの人々が年をとっても筋肉のついたきれいな脚線を維持しているのかが理解できる。1日に3回、4時間もジャングルで働けば若さが保てるはずだ。

はだし一週間目

  2日前、また足にとげが刺さり、その傷口が化膿してしまった。泥が入らない様にバンドエイドをはっておいた。昨日、今度は足の小指近くを切ってしまい、またバンドエイドを巻いたが数分で取れてしまう。指の間から押し出される土の勢いで、バンドエイドがはがれてしまうのだ。
  まだ、はだしでジャングルを歩くのは変な感じがするが、やっと楽しんで歩けるようになってきた。川床の尖った石の上を歩くのも1時間はなんとか耐えられる。それにこの数日間、初めて丸太から落ちずに歩くことが出来るようにもなった。

僕は今日もメンタワイの家族とジャングルを歩いた。ドリアンなどの実を見つけるたびに僕達は小休止して胃を満たし、残りは拾って帰るためにとっておいた。
    ジャングルは本当に美しい。川をたどって歩いていくと、流れが変化するたびに淵が出来、澄み切った川の水が現れる。うっそうと茂る草木が川の両岸を覆い、眩しいくらいに輝く水面にその緑を映している。木の枝や葉はまるで屋根のように頭上を埋め尽くし、太陽はそのわずかな隙間から光の筋となって森の中に入り込んでくる。
  川を後にすると、僕は足に刺さるとげを抜くために何度も皆に止まってもらわなければならなかった。多分、大人のくせになんで歩き方もわからないのだろうと、このメンタワイの森に生きる子供達は不思議に思っていたに違いない。

ジョンフィリップ・スレ

訳:西山 晴美     更新日 : 1999年 11月 1日

フォトギャラリーメイン・最新情報ページメンタワイのページ

カスク2000Englishページトラベルフォトギャラリー